顎のポキポキ音、放っておいて大丈夫?歯科医が教える原因と対処法
皆さん、口を開けたり閉じたりしたときに「顎がポキポキ鳴る」という経験はありませんか?音だけだからと放置している方も多いかもしれませんが、噛み合わせの乱れや顎関節症が隠れていることもあります。
このコラムでは、顎のポキポキ音が鳴る原因や考えられる病気、セルフケアの方法まで、歯科医師の視点でわかりやすくお伝えします。自分でできる対策を知り、必要に応じて適切に歯科を受診しましょう。
顎がポキポキ鳴るのはなぜ?
顎がポキポキ鳴る理由には、いくつかの原因が考えられます。多くの場合、顎関節内にある関節円板(軟骨のような役割を果たす組織)がズレていることが関係しています。
本来、顎の関節は下顎の骨と頭の骨を繋ぐ部分に円板が挟まっており、滑らかに動くことでスムーズな開閉を助けます。しかし、噛み合わせの乱れや歯並びのズレ、歯の食いしばり、虫歯や歯茎の炎症による咬合バランスの崩れなどがあると、関節円板が正常な位置からずれてしまい、動くたびに「ポキッ」「コキッ」という音が鳴るのです。
また、子供や若い方でも顎の発育段階で一時的に音が鳴ることもありますが、強い違和感や痛みがない限りは一過性であることが多いです。一方で、ストレスなどによる食いしばり癖がある方は顎の負担が増え、音が続いたり悪化したりするので注意が必要です。

音が鳴るだけなら放置しても大丈夫?
「音だけで痛みがないから大丈夫」と思って放置する方は少なくありません。確かに、顎のポキポキ音だけで特に痛みや口の開けづらさがなければ、すぐに深刻な病気というわけではありません。しかし、放っておくと徐々に痛みや口の開きにくさなどが現れることがあります。
特に、音に加えて「顎が痛い」「大きく口を開けられない」「口を開けるときに引っかかる感じがする」といった症状があれば、顎関節症の初期段階かもしれません。この場合はセルフケアだけでは治しきれないことも多いため、早めに歯科医院で診察を受けることをおすすめします。
顎のトラブルは噛み合わせや歯のすり減り、虫歯治療後の詰め物の高さなどが関係しているケースも多いため、音が鳴るだけの症状であっても自己判断で放置せず一度専門家に相談しましょう。
顎関節症の可能性がある症状
顎関節は、下顎頭(下あごの骨)と側頭骨(頭の骨)の間に関節円板が挟まって構成されています。この関節円板が正常な位置から逸脱したり、関節周囲の筋肉や靭帯に大きな負担がかかったりすると、痛みや可動域の制限といった症状が出やすくなります。

口が開けにくい・開けると痛い
顎関節症の代表的な症状の一つが、開口障害(口が開けにくい状態)です。成人の正常な開口量は約40〜50mm程度とされていますが、開口量が30mm以下に制限されたり、開けると痛みが生じたりする場合は、関節円板の転位や咀嚼筋の緊張が関与していることが多いです。
顎に痛みがある
関節内で炎症(滑膜炎)が起こっている場合や、関節円板のズレによって周囲の組織が圧迫されると、口の開閉時に痛みが現れます。食事や会話など、顎を頻繁に動かす行為で痛みが増すのも特徴です。
音が鳴る頻度が増えた
「ポキポキ」という音は、関節円板の前方転位(ズレ)と復位(元の位置に戻ること)が繰り返されることで発生します。頻繁に音が鳴る場合、関節円板が完全には復位せずに動きが不安定になっている可能性があります。放置すると、円板の変性や関節の変形が進行することもあります。
頭痛や肩こりがひどい
顎関節症は、顎だけでなく頭頸部の筋肉の緊張を引き起こすため、緊張型頭痛や慢性的な肩こりの原因になることがあります。また、顎の位置異常は噛み合わせのバランスを崩し、歯茎や咬合力の分散に影響を及ぼすため、虫歯の進行を早める要因となることも否定できません。
これらの症状がみられる場合は、単なる一時的な不調ではなく、関節や筋肉に慢性的な負担がかかっている可能性が高いです。悪化を防ぐためにも、自己判断で「そのうち治る」と思わず、できるだけ早めに歯科医院で診断を受け、噛み合わせの調整やマウスピースによる顎の保護など、適切な治療を検討しましょう。
顎が鳴る人におすすめしたいセルフケア
顎からポキポキと音がするものの痛みがない場合は、関節や咀嚼筋(そしゃくきん)に余計な負担をかけないよう、日常生活の中でセルフケアを取り入れることが大切です。顎関節症は多くの場合、関節円板や咀嚼筋の過緊張、噛み合わせのアンバランスが関わっているため、無理をしない範囲で関節を安静に保つことが改善につながります。

正しい姿勢を意識する
首や肩の姿勢は、顎関節の位置に大きな影響を与えます。猫背やストレートネックの姿勢では下顎が後方に引かれ、関節円板がずれやすくなります。座っているときも立っているときも、背筋を伸ばし、耳・肩・腰が一直線になるよう意識しましょう。デスクワークの際には椅子の高さやモニターの位置を見直すことも大切です。
食いしばりを防ぐ
無意識の食いしばり(ブラキシズム)は、咀嚼筋に大きな負担をかけ、顎関節症の原因になります。リラックスしたとき、上下の歯は本来わずかに離れているのが正常です。日中、歯が接触していないか時々確認し、「上下の歯を離し、舌を上あごに軽くつける」ことを習慣づけましょう。寝ている間の食いしばりが強い場合は、歯科医院でナイトガード(マウスピース)を作製する方法も有効です。
固いものを控える
顎関節や咀嚼筋に過度な負荷をかける食品は控えましょう。するめ、氷、ナッツ類、フランスパンの硬い皮などは、筋肉の緊張を高めるだけでなく、歯にも負担がかかります。顎が疲れているときや音が目立つときは、柔らかく消化の良い食事を選び、片側だけで噛むクセがつかないよう両側でバランスよく噛むことも重要です。
温めて筋肉をほぐす
顎の周囲の筋肉(咬筋、側頭筋)は、ストレスや噛み締めで硬くなりやすい部位です。腫れや炎症がない場合には、蒸しタオルや入浴で顎周りを温めると、筋肉の血流が良くなり、痛みの予防につながります。ただし、強い痛みや熱感がある場合は急性炎症の可能性があるため、温めるのではなく冷やす方が適しているケースもあります。無理をせず様子を見ましょう。
顎のポキポキ音でやってはいけないこと
「音をなくそう」と無理に大きく口を開けたり、勢いよく顎を動かしたりするのは逆効果です。関節円板に過剰な負荷がかかり、症状を悪化させることがあります。また、自己流のマッサージやストレッチで強く押したり伸ばしたりすることも避けましょう。痛みが出る動作は控え、顎を安静に保つことが一番の治し方です。
まとめ
顎のポキポキ音は、痛みがないうちは軽く考えがちですが、噛み合わせの乱れや顎関節症が隠れていることもあります。セルフケアで改善しない場合や痛みが出てきた場合は、無理に放置せず早めに歯科を受診しましょう。患者様一人ひとりの噛み合わせや生活習慣を見直すことが、顎の健康を守る第一歩です。不安な症状は自己判断せず、いつでも吉祥寺駅3分の歯医者ハート・イン歯科クリニックまでご相談ください。